浅草の賑わいから少し離れ、調理道具の街として知られる「かっぱ橋道具街」の裏手へ。 今日は、静かな住宅街にひっそりと佇む、心安らぐ場所をご紹介します。
その場所は、「矢先稲荷神社(やさきいなりじんじゃ)」。
白い鳥居をくぐり、少しこじんまりとした境内に入ると、そこには不思議と落ち着く空気が流れていました。

この神社の名前にある「矢先」とは、弓矢の「矢の先」のこと。 かつて江戸時代、この場所には京都の三十三間堂を模したお堂があり、武士たちが弓の腕を競い合った場所だったそうです。 「放った矢が、無事に的を射抜きますように」 そんな真剣な祈りが積み重なった場所だからでしょうか。ここには、背筋がすっと伸びるような、心地よい緊張感と静寂があります。
扉の向こう、神様のお近くへ

参拝を済ませたら、ぜひ靴を脱いで、拝殿(本殿)の中へ上がらせていただきましょう。 「入ってもいいのかな?」と少しドキドキするかもしれませんが、矢先稲荷神社は参拝者が堂内に上がることを許してくださっている、とても懐の深い神社なのです。
畳の上でお参りをし、ふっと一息ついて上を見上げてみてください。 そこには、息を呑むような光景が広がっています。
頭上に広がる、100枚の馬の物語

拝殿の天井(格天井)を埋め尽くすのは、100枚もの「馬」の絵画です。 これは「日本馬乗史」といって、神武天皇の時代から明治維新に至るまでの、日本の馬術や乗馬の歴史を描いたものだそう。
一枚一枚、丁寧に描かれた馬たちは、どれも生き生きとしています。 勇ましく野を駆ける馬、武士を乗せて静かに歩む馬、優しげな瞳でこちらを見つめる馬……。
さらに嬉しいことに、この素晴らしい天井画は、写真撮影も許可されています。 「美しい記憶を持ち帰ってほしい」という神社の優しいお心遣いを感じますね。 (※撮影の際は、神様への敬意を忘れず、静かに行いましょう。そしてもちろんご神体は撮影禁止です。)
首が痛くなるのも忘れて見入ってしまうほど、その表情は豊かです。 かつて馬は、人々の生活や戦いにおいて、なくてはならない大切なパートナーでした。そんな人と馬との深い絆が、天井いっぱいに描かれているように感じます。

私は巴御前がお気に入り。皆さんもぜひお気に入りを探してみてください。
ちゃんと一覧表があるのでどの絵馬が誰なのか一目でわかります。これはいいですね。

上から降り注ぐ100頭の馬たちの視線は、決して怖いものではなく、どこか優しく、私たちを包み込んでくれるかのよう。 「大丈夫、そのまま前へ進みなさい」と、背中を押してくれているような気さえしてきます。
そしてもうひとつ、本殿の右側にある馬の絵。こちらにもぜひ注目していただきたいです。いろいろな表情の馬が描かれていて、見ているだけで楽しいです。寝転がってる馬もいます。

心に矢を立てる、志の神社

矢先稲荷神社は、その由来から「志を貫く」「目標を射止める」というご利益があるとも言われています。
叶えたい夢がある時、ちょっと自分に自信をなくしてしまった時。 この場所を訪れて、天井の馬たちに見守られながら手を合わせれば、心の中にある「的」がはっきりと見えてくるかもしれません。
浅草散策の合間に、ふと空を見上げるように、美しい天井画に会いに行ってみませんか? 静かな感動が、あなたを待っています。
矢先稲荷神社概要
- 神社名: 矢先稲荷神社(やさきいなりじんじゃ)
- 御祭神: 倉稲魂命(うかのみたまのみこと)※お稲荷様
- ご利益: 商売繁盛、五穀豊穣、立身出世、学業成就
- 浅草名所七福神: 福禄寿(ふくろくじゅ)
- 歴史・由来: 江戸時代、この場所には京都の三十三間堂に倣った「浅草三十三間堂」があり、通し矢(弓術)の練習場でした。弓の射手が「矢の先(的)」の安全と成就を祈願したことから「矢先」という名がついたとされています。
- 見どころ: 拝殿の格天井に奉納された「日本馬乗史」の100枚の絵画。
矢先稲荷神社アクセス
東京都台東区松が谷2-14-1
- 東京メトロ銀座線「田原町駅」または「稲荷町駅」より徒歩約7分
