「東海道四谷怪談」歌舞伎の演目で、昭和の時代には映画もありました。昭和34年公開だそうです。四谷怪談と言えば、良妻賢母のお岩が夫・伊右衛門に惨殺され、幽霊となって復讐を果たす、これが基本的なストーリー。ただ見ている人々に恐怖を与えるため、様々な怖いシーンがあります。伊右衛門がお岩に飲ませた毒により、顔が崩れ、髪が抜け落ちるシーンが有名ですよね。
もちろんこれは四代目鶴屋南北作の歌舞伎の演目です。なので於岩稲荷田宮神社は呪いや恨み、復讐などと言う言葉とは全く無縁の神社なのです。
今回は中央区八丁堀駅からほど近い於岩稲荷田宮神社に伺いました。四谷に鎮座する二つのお岩さんの名前がついた神社とお寺を含めながら、ゆっくりお話をしていきたいと思います。後半は「お狐様推し!」の私がちょっと珍しいお狐様を紹介します。
目次
都内に3つ?お岩さんを祀る場所
東京都内には於岩稲荷と名の付くところが3か所あります。新宿区四谷の「於岩稲荷田宮神社」、新宿区四谷の「陽運寺 於岩稲荷」そして今回伺った中央区新川の「於岩稲荷田宮神社」・・・なんだか何が何やら、と言う感じですが、まずはこの3つの於岩稲荷について説明しますね。わかりやすいように簡単に流れを箇条書きで。
元々の於岩稲荷田宮神社
- 現在四谷に鎮座する於岩稲荷田宮神社は、元々は江戸時代から、田宮家の屋敷神社として四谷にありました。
- 火災により社殿が焼失してしまいます。
- そこで歌舞伎役者の敷地、中央区新川にお引越し。(今回お伺いした神社ですね)元の場所には小さな祠が残るのみとなりました。
突然現れた陽運寺於岩稲荷
- 四谷の於岩稲荷田宮神社の向かいに鎮座するのが、日蓮宗の「お寺」である陽運寺です。
- 於岩稲荷田宮神社が中央区へ移転して四谷に無かった昭和初期に、『東海道四谷怪談』の作者・鶴屋南北ゆかりの地に建立されました。
- お芝居のイメージも相まって、「悪縁を切り、良縁を結ぶ」というご利益が有名になり、「縁切り寺」として知られるようになります。
於岩稲荷田宮神社、元の場所へ
- 戦後になり、陽運寺は「お岩さまはこちら」と盛んににアピールするようになります。
- これに対し、神社の本家である田宮家側が「正統な由緒はこちらにある」として、昭和27年に元あった四谷の土地に神社を再建しました。
これが四谷の向かい合わせの於岩稲荷の真相です。新宿区四谷の於岩稲荷田宮神社は中央区新川の於岩稲荷田宮神社の飛地境内社(とびちけいだいしゃ)という事になるそうで、於岩稲荷と名の付く場所は、都内で3件ではなく2件という事になります。
いわれを長々書いてしまいましたが、ここからやっと中央区の於岩稲荷田宮神社の御紹介です。
決して怖くはないお岩さんと於岩稲荷田宮神社

於岩稲荷田宮神社は中央区新川にひっそりと佇む静かな神社です。気を付けて行かないと普通のちょっと古い住宅のようで通り過ぎてしまいそうです。
お岩さんと言えばだれもが思い浮かべる東海道四谷怪談の主人公。でも実際のお岩さんは、夫を支え家を再興させた良妻賢母として地元の人々に厚く信仰された、心温かい女性なのです。
怪談の影に隠れた、真の「貞女の鑑」
於岩稲荷田宮神社の起源は、江戸時代の初め、現在の新宿区四谷左門町にあった幕府の御家人・田宮家の屋敷神でした。
田宮家二代目の妻であるお岩さんは、夫と共に家伝の稲荷を篤く信仰し、衰退していた田宮家を見事に再興させたと言われています。そのため、お岩さんは貞淑な妻、家を守る母として尊敬を集め、「お岩さんにあやかりたい」と願う人々が、田宮家の屋敷神に参拝するようになりました。これが「於岩稲荷」のはじまりです。
そしてその後、四代目鶴屋南北によって創作された歌舞伎「東海道四谷怪談」によって、お岩さんの名は、世にも恐ろしい怪談の主人公として広まってしまいます。物語では、夫に裏切られ非業の死を遂げた怨霊として描かれますが、これはあくまで創作。
神社が祀るのは、怪談の「お岩」ではなく、実在した良妻賢母の「田宮於岩命(たみやおいわのみこと)」、そして田宮家が代々大切にしてきた豊受比売大神(とようけひめのおおかみ)です。
そう考えると夫の伊右衛門は最低のクズ男のように描かれていますが、こちらも多分創作でありちょっとかわいそうな気もしますね。
新川への遷座と役者たちの崇敬
元々四谷にあった於岩稲荷ですが、明治12年(1879年)の大火で焼失してしまいます。
この時、手を差し伸べたのが、当時『東海道四谷怪談』を得意とし、お岩さんへの崇敬の念が深かった初代市川左團次をはじめとする歌舞伎役者たちでした。彼らの願いと寄進により、芝居小屋に近く参拝しやすい現在の中央区新川の地に、於岩稲荷は再興されたのです。
芝居関係者からの篤い信仰を受け、新川の於岩稲荷田宮神社は、興行の成功や芸道の上達を願う人々からも崇敬を集めてきました。
お岩さまからいただくご利益

於岩稲荷田宮神社は、怪談とは真逆のやさしく力強いご利益で知られています。ご祭神は豊受比賣大神(とようけひめのおおかみ)と田宮於岩命(たみやおいわのみこと)の二柱です。ご利益は稲荷神、そして良妻賢母の於岩さんらしい優しく力強いご利益です。
- 家内安全・夫婦円満:夫を支え家を再興したお岩さんの功績から、夫婦の絆を強め、家庭を円満に導くご利益があります。
- 縁結び・良縁成就:貞淑な妻の鑑であるお岩さんにあやかり、良いご縁を願う参拝者も多く訪れます。
- 商売繁盛・金運向上:田宮家を立て直したその力から、金運や仕事運にもご利益があるとされています。
お狐様もいるよ!小さな祠は狐塚

本堂の前には、これはもう「絶対に笑ってるし犬でしょ!」的なお狐様がいます。耳の形もかわいいし、しっぽは猫みたいだし。この対のお狐様の優しい柔らかい表情はお岩さんの優しさに繋がるのかな、などと思いながら。にしてもやっぱり笑ってるなぁ。

奥には小さな祠の狐塚。多分昔はたくさんのお狐様がいたのかもしれませんね。
於岩稲荷田宮神社御朱印

神職の方が不在のため、鉄砲洲稲荷神社にて拝受していただけるようです。
最後に
恐怖の対象ではなく、「良妻賢母の鑑」「家の守り神」として愛されてきたお岩さん。中央区新川の於岩稲荷田宮神社は、決して広くはないし、四谷の陽運寺のような煌びやかさもありません、でも心やさしい女性の強さと温かさが宿る、静かな静かなパワースポットです。怪談のイメージを忘れ、お岩さんの本当の姿に思いを馳せながら参拝してみてはいかがでしょうか。
於岩稲荷田宮神社アクセス
〒104-0033 東京都中央区新川2-25-11
- 東京メトロ日比谷線「八丁堀駅」より徒歩10分
- 江戸バス「新川2丁目」停留所より徒歩2分
中央区コミュニティバス江戸バス路線図


